東京高等裁判所 昭和30年(ネ)481号 判決
前示賃貸借契約は借地法が川越市に施行された昭和一五年九月二六日前に成立したものであり、右賃貸借契約において建物の種類及び構造を定めていないことは甲第一号証によつて明らかであるから、堅固の建物以外の建物の所有を目的とするものと認むべきであるから(被控訴人等は右賃貸借は乗合自動車営業用車庫建設の目的でなされたものであるから、該事業の公共性永続性車庫として特殊の設備を必要とする等の事情から堅固の建物の所有を目的とするものであると主張するが、単に乗合自動車用車庫というだけで堅固の建物の所有を目的とするものとは解し難く、右主張は採用することができない。)同法第一七条第一項本文の規定により、その存続期間は既に経過した期間を算入し昭和八年五月二二日(甲第一号証による本件賃貸借契約成立の日)から二〇年間すなわち昭和二八年五月二二日に満了するものと解するのを相当とする。
よつて控訴人の右更新拒絶について正当の事由があつたかどうかについて考えるに、証拠を綜合すれば、控訴会社は川越市内で牛肉商を営んでいる会社で、現在の営業所は訴外一ノ瀬福治から賃借しているものであるが、店舗の外階下六畳四畳階上六畳しかなく、しかもここには控訴会社の代表取締役である長島安太郎夫婦その長男長島英一夫婦等が居住しており、家屋が狭少のため他の家族(二女三女及び二男)雇人等四名は他所に間借して店に通つていること、二男に嫁を迎え支店を出させ度いと思つていること、右家屋は家主の一ノ瀬から立退を求められていること等が認められ、一方他の証拠を綜合すると、本件建物中車庫の方は、戦時中木炭バス等を格納していたが、終戦後大型バスが使用されるようになつてからは、面積が狭いためこれを格納することができないので、古い小型バスや自動車の部品燃料等をこれに貯蔵し、一時その一部を「三信工業」と称する被控訴会社の傍系会社に貸して専ら被控訴会社の不用払下品の販売の仕事をやらせていたこともあり、控訴人の前記更新拒絶の意思表示があつた当時は専ら被控訴会社の営業用乗用自動車(ハイヤー)の格納に使用していること、本件建物中居宅の方は戦時中から被控訴会社の従業員である被控訴人渡辺仙吉が居住していること、本件土地は前所有者吉田岩太郎と被控訴会社との間において買受交渉中、控訴人が買受けてしまつたものであること、及び被控訴会社にとつて川越市内に新たに車庫用地を求めることは予めその近隣居住者の同意を得なければならないし、高額の権利金等をも出さなければならないので、容易のことではなく、同市郊外に車庫を設けることは自動車の燃料が不経済であり、操車上も不便であること、等の事情が認められ、本件建物が車庫に使われたことがない旨の原審証人田尻茂等の各証言は措信し難く、控訴人の援用にかかるその余の証拠によつても右認定をくつがえすに足りない。
以上認定の当事者双方の事情を比較考慮すれば、控訴人の前記更新拒絶の意思表示については、いまだ正当の事由があつたものとは認め難い。控訴人主張の本件土地賃料額が本件土地の固定資産税額に比し著しく低廉であるとのことは、これを以て直ちに更新拒絶の正当事由となすに足りないし、右低廉な賃料額を被控訴会社が供託したからとてこれを以て借地人の不誠実な態度であるとするわけにゆかない。また当審証人佐藤仲次郎の証言によれば、本件建物の前の道路は三、四間幅の川越市道であつて、昭和二八年一二月から一方交通を実施されたので、バスの運行には不適当であることが認められるけれども、それがため被控訴会社の営業用乗用自動車の車庫として本件建物を使用することまで、不能となるものとは認められないし、右一方交通の実施は本件更新拒絶の意思表示後における事情であつて、これを以て右拒絶の正当事由を定める基準とすることはできない。結局前記更新拒絶の意思表示は正当の事由を欠く無効のものと解するを相当とする。
(角村 菊池 吉田豊)